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 紅茶の時間



★ 大学一年生・秋 【第一学生食堂】pm.12:12


「友近くん、友近くん!!」
 いつもの時間、いつもの席に友近くんは座っている。端っこで目立たなくて非常に彼らしいといえば彼らしいけれど、人でごった返しているこの時間に彼の指定席までたどり着くのはなかなかやっかいなのだ。出入り口から遠いし、間の席に人はいるしで、何人もの人に頭を下げていかなくてはならないから。
「なんですか、若月さん。……騒々しいですね」
 その言葉を聞きながら私は向かいの席に腰を下ろした。端っこが友近くんの指定席なら、その向かいはほとんど私の指定席になっている。
「あ、今、心の中で"相変わらず"とかつけたでしょう!?」
 呆れたような友近くんの顔にむっとくるものを感じてそう言い返した。
「いいえ?」
 食事を進めながらさらりと否定するけれど、それがかえってわざとらしい。
「いーや、絶対につけたね」
「つけてませんよ」
「つけた」
「つけてません」
「「……………………………………」」
 結構粘ってみるものの、友近くんは口を割りそうになくてため息をついた。まあ、そんな粘って吐かせるようなことでもないからいいんだけど。
「……っていうか、ここまできみが粘る点で、それらしいことを思っていたのは確実なんだけど。まあ、いいや」
「いいんですか」
「いいの。どうせ口を割る気がないくせに何を言う。それより、さっき聞いたんだけど、駅前に新しい喫茶店ができたらしんだ。帰りに行こうよ」
 そういうと、友近くんは箸を止めた。そしてちょっと言いにくそうにする。
「今日はちょっと調べ物をする予定があるんですけど」
「それって明日までなの?」
「違いますけど」
「だったらそれ明日にして、今日は喫茶店行こうよ」
「できるだけ早く仕上げたいものなんですよ」
「明日にしろ」
 にっこり笑って命令形。特上の笑顔なだけあって、周りからいろいろ視線を感じたけれど、それは限りなく無視しておく。大学に入って無理は止めたけれど、元々努力は怠らないようにしてきただけあって、高校のとき以上にもてていたりする。面倒なので気づかないふりで逃げてはいるけれど。
「…………最近思うんですが、被ってたはずの巨大な猫はどうしたんですか」
 命令形と周囲から突き刺さる『何でこんな地味な奴が』的視線に顔を引きつらせながら、友近くんがぼそりとこぼした。
 友近くんは相変わらず地味で目立たないので、もてているような様子はまったくない。高校のときは私以外の人間は友近くんの家のことを知っていたから、みんなの見る目は違っていたようだけれど、国立大に進学した今では自己申告でもしない限り実家のことなどばれやしない。
「そんなもの、高校に置いてきたに決まっているじゃない!」
「取りに戻ってください」
「嫌よ、あんな暑苦しいもの」
 今度は私ではなくて友近くんがため息をついた。
「喫茶店に行くのが明日じゃ駄目なんですか?」
「明日はバイトだから無理」
「じゃあ、他の……」
 他の人を誘ってください、と言いかけた友近くんはそこで口が止まってしまった。どうやら周りの視線を感じたらしい。なんと言っていいかわかならない奇妙な顔をして悩んでいた。
 なんとなく、悩んでいる内容はわかったけれどそのまま放っておく。なんとなく、最近負けている気がして悔しかった。たまに優位に立てるこういうときがものすごく嬉しい。
「元陶磁器研究会所属のわたしたちにぴったりな感じの店だって言われたんだよ。いろんなカップでコーヒーとか紅茶とか出してくれるんだって。私は行ったことないからわからないんだけど、雑誌には軽井沢の茜屋みたいな店だって書いてあったらしいの」
「ああ、茜屋ですか。昔ながらの内装にずらりと並んだ有名メーカーもののカップ、本格的コーヒー・紅茶で高い価格ってところですか」
「だから私はよくわからないんだって。でも、それだけおいしいんでしょう?」
「まあ、それなりに。そんなに興味あるんですか?」
「うん。行きたい」
「…………わかりましたよ、付き合いますよ」
 本当にしぶしぶという感じに友近くんは言った。
「ありがと。でも友近くん、茜屋に行ったことがあるのね」
「ええ。軽井沢にはよく行きましたから」
「も、もしかして、別荘があるとか?」
「ありますよ」
 さらりと肯定されて、根っからの庶民の私は分かっていたことだけれど驚かされた。
「うっわー、やっぱりブルジョアねー」
 あのお金持ち学校の理事をやっているくらいだもんなあ、別荘の一つや二つあるよね……。いいなあ、羨ましいな。軽井沢なんて行ったことないもんなあ。
「いいね、有名避暑地に別荘なんて。今度私も招待してね。アウトレットとかあるらしいし、一度も言った事ないから行ってみたーい」
 素敵な別荘を想像して憧れに浸っていたら、なんだか友近くんは今度こそ黙ってしまった。
「だめ?」
 ちょっと不安になってもう一度聞くと、何か言いかけてそれをやめ、諦めたように肩を落とした。
「…………運転免許が取れたらってことで」
「何で?」
 何故いきなり免許が出てくるのかがわからなくて聞き返すと、友近くんは諭すように言った。
「若月さん、別荘地をなめちゃいけません。駅周辺ならともかく、基本的に別荘なんてものは人里離れた田舎にあるものですよ。もちろんバスなんて少ないし、タクシーだと行くのはいいですけど、呼ぶのはなかなか大変なんです。道の目印が少ないですから。だから自由に動ける足がないうちは行くのは難しいんですよ。――それとも」
「それとも?」
 別荘に対しての夢をちょっと打ち砕かれて少し衝撃があるんだけど、まだ続くんですか?
「保護者付きで行きたいですか? せっかく置いてきた暑苦しい巨大猫を取りに帰るはめになりませんか、それ」
「そ、それはちょっと嫌かも〜〜」
 言われて及び腰になると、友近くんはほっと息をつく。
 なんかちょっとそれ、失礼じゃない?

〔つづく→〕


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 なんかやっぱり振り回されている友近くんでした。苦労してます。
 このお話は『午後四時のお茶会』の番外編、というか続編にあたります。未読の方はぜひそちらもご覧になってください。
 本当はもう一場面書いているんですが、中途半端すぎてUPできないでいます……。
 UpDate.2003.11.22

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